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「事業仕分け」に対するパブリックコメント 本研究会は、今回のいわゆる「事業仕分け」の科学技術分野に関する審議において次世代スパコンの凍結をはじめとする深刻な判定がなされたことを深く憂慮し、去る11月29日、文部科学省宛にパブリックコメントを提出しました。
パブリックコメント全文
文部科学省
副大臣 中川正春 様
政務官 後藤 斎 様拝啓、時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
下記の事業仕分けの結果に対するパブリックコメントとしまして、以下に日本溶液化学研究会(運営委委員会)からの意見を述べさせていただきます。
事業番号9、独立行政法人理化学研究所1(次世代スーパーコンピューティング技術の推進)
「事業仕分け」に対する「日本溶液化学研究会」からのコメントわが国の近代史における発展の原点は、鳩山新首相の就任演説にもあったとおり、鎖国時代の封建政治の市民革命としての明治維新という政治改革を経て、その変革に合わせた教育制度の大改革を伴う文明開化を目指してきたことにあります。国家および国民の将来の可能性には夢が必要であり、それが外に向かうこと(頭脳流失や侵略を引き起こす事態)は不幸であり、悲劇の始まりです。学術研究の展望と将来性は劇場型の議論において生まれるものではなく、世界と日本の状況を冷静・沈着に分析把握した、広い視野に立脚した議論によってのみ生まれるものです。グローバル化時代を逞しく生きて欲しい次世代の若者達のエネルギーを引き出し、国民に愛されるリーダーを育て、励まして鼓舞する力となる科学技術学術行政につながる国家の予算であることを切望してやみません。
ほとんど全ての化学反応は、溶液中で進行し、バイオ過程は水中で起こります。ナノ・バイオの基礎研究から、電池・創薬・プラント設計まで、溶液の理解無しに健全な進歩はありません。一見地味で、黒子的な溶液研究ですが、基礎から応用まで幅広い科学・技術の基礎となって、日々、国民生活に役立っています。学術面でも、溶液化学の進展は、他分野への波及効果が大きく、例えば、「揺らぎと生体機能」「水和とATP」「実在系の分子理論」などといったチーム型のプロジェクトでも、溶液の研究者が中核的な役割を果たし、他分野の研究者に強い刺激を与えています。
本研究会は、溶液研究者の集合です。溶液化学は、最近20年ほどの間に目覚しい進歩を遂げました。進歩の一つの原因が、理論・計算です。本研究会会員の約1/3は、理論・計算の研究者であり、理論・計算と実験の研究者が、理想的な割合で混合し、現在では、世界トップレベルの研究者集団となっています。日本の溶液化学は、理論・計算研究との融合によって、分野が大きく発展したモデルケースです。
今回の仕分け作業で、次世代スパコンは凍結との判断が下されました。ますます深化し、他分野・産業へも大きく波及している、最近の溶液化学の進展の様子を見ると、次世代スパコン凍結は問題あり、と考えざるを得ません。理論・計算と実験は、車の両輪のようなもので、どちらかが欠けると歪であり、逆に、うまく連携すると飛躍的発展に繋がることを、本研究会の活動が実例として示しているからです。科学のフロンティアは、ますます複雑な系を扱うことを要求します。次世代スパコンは、その目的を達成するために必要な道具です。よって、次世代スパコンの開発再開を強く願います。
今回の「事業仕分け」では次世代スパコンだけでなく、大学における基盤的な経費である「運営交付金」を始め、「特別教育研究経費」や「科研費」もその対象とされました。これらは大学や研究機関における学術研究を支える最も重要な経費であり、これを削減の対象にすることは即ち大学における基礎研究の命脈を断ち切ることを意味します。わが国の基礎研究の灯火が消えぬよう可能な限りの支援を続けて下さることを期待・祈念します。
国民の生活を守るために、科学技術基本法に謳われた精神を今こそ確認し、国家の基本は文明の力を育てることであり、その実現の源は学術研究教育にあるとの認識を共有していただきたいものです。
日本溶液化学研究会
会長 中原 勝 (京都大学) 運営委員長 平田文男 (分子科学研究所) 運営副委員長 山口敏男 (福岡大学) 寺嶋正秀 (京都大学) 運営委員 冨永敏弘 (岡山理科大学) 飯田雅康 (奈良女子大学) 石黒慎一 (九州大学) 伊吹和泰 (同志社大学) 岡崎 進 (名古屋大学) 小川英生 (東京電機大学) 亀田恭男 (山形大学) 澤田 清 (新潟大学) 横山晴彦 (横浜市立大学)
〒606-8502 京都市左京区北白川追分町 京都大学大学院理学研究科化学専攻 光物理化学研究室内 溶液化学研究会事務局 Tel: 075-753-4026, FAX: 075-753-4000, e-mail: jimukyoku<at-mark>solnchem.jp |